アナリストの眼
日本の現場力
掲載日:2014年04月01日
- アナリスト
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投資調査室 小林 守伸
年度末を迎えるにあたり、当年度の調査活動を振り返ってみますと、当年度も担当している幾つかの企業の工場を訪問する機会があり、貴重な知見を得ることができたことを思い起こしました。工場訪問での貴重な気付きについては、過去、このコラムでも何回か紹介させていただきましたが、生産現場では、いつも新しい気付きがあります。
アベノミクスによる為替の過度な円高への是正もあり、国内生産への回帰を検討する企業が出始めてきました。先日、ある精密大手企業の経営トップの話を聞く機会がありました。この企業は、早くから海外生産へのシフトを進め、現在の海外生産比率は半分強に至っています。最近になって、再び国内生産の比率を高める方針を打ち出しました。海外の生産拠点と比べて日本の生産現場の生産性改善が際立っていることが背景とのことです。
この会社は1990年代初めに製品組み立ての方式を従来のベルトコンベアによる分業生産体制から「セル生産方式」へ大転換しました。「セル生産方式」とは、5~10人程度のグループ(これをセル(細胞)と呼ぶ)で製品の組み立てを行う方式です。ベルトコンベア方式では、工程間に仕掛品(つくりかけの製品)が滞留しやすいなど欠点が目立つようになっていました。セル生産では、作業者は複数の工程を受け持つようになり、「多能工」と呼ばれます。習熟を積めば一人で組み立ての全工程を行うことができるようになります。この会社では、3000点にも及ぶパーツから成る複写機の組み立てを一人で行えるような多能工が日本の現場で増えており、そこから出される生産工程の改善案により、生産性がさらに向上するといった好循環が生まれているようです。
昨年、医療機器を手がける別の企業の工場を訪問しました。その生産現場におけるモチベーションの高さに驚き、感銘を受けました。工場全体で作業者の技能向上を支援する体制が整備されています。生産工程ごとに「技能道場」と名付けられた技能訓練の場が提供されており、段階的に技能向上が図られるよう教育カリキュラムが組まれています。複数の工程の技能を身に着けやすくし、多能工化を促進しています。また、国家技能検定に加え、社内技能検定も準備し、多面的に自己啓発・相互研鑽の風土が醸成されています。この会社の医療機器は世界トップシェアで、生産は全て日本で行われています。医者の繊細な要求に応えるべく、すり合わせ技術を屈指した高度な生産が行われています。現場の高度な技能と高いモチベーションによって実現されており、日本のこの工場でしか生産できない製品であることが実感できました。
従業員の高い技能とモチベーションを背景とした日本の現場力の高さは、他の企業の工場でも体感しています。前述とは別の会社の工場を訪問した時、我々の予定が分刻みで計画されていたことに驚かされたことがあります。時間管理に対する高い意識が背景とみられます。
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