アナリストの眼

2012年は当たり年?

掲載日:2013年03月26日

アナリスト

投資調査室 八並 純子

FDAの新薬承認数は久しぶりの増加

2012年のFDA(アメリカ食品医薬品局)の新薬承認数は39(新規成分は33)と、1999年の38以来の多さとなりました。1996年には56、その後も1999年まで40前後の承認が続いておりましたが、特に2005年以降はFDAの審査厳格化の動きもあり、20前後の承認となっておりました。2012年に承認された薬剤は抗がん剤が多く、薬品会社のがんへの取り組み強化の成果が表れた年でもあったと思います。長年支えてきた製品の特許が切れたことによる業績悪化から、新薬承認により成長の姿が見えてきた会社もあり、業界の成長と医療の発展を応援する一アナリストとしても嬉しい話です。

抗がん剤の開発が進展

2012年のFDAの新薬承認のなかで最も多かったのは抗がん剤です。アステラス社とMedivation社が共同開発した前立腺がん治療薬『Xtandi』は2011年に承認となったJNJ(Johnson & Johnson)社の薬剤と合わせて、化学療法が効かなくなった患者さんに対して新しい選択肢を提供するものとなりました。小野製薬社が日本の権利をもっているOnyx社の『Kyprolis』も多発性骨髄腫の患者さんで既存薬が有効でなくなった患者に対して奏功を示すものです。Byaer社の『Stivarga』も大腸がんの患者さんで既存薬が有効でなくなった患者に対して選択肢を与えるものです。このように、抗がん剤では、複数の治療選択肢が存在する領域では、まずは、既存の治療薬で効果がなくなった患者さんに対して試験をすることからスタートし、徐々にさまざまな状態の患者さんに対する試験を行い、結果を示すことで使用の機会を広げていきます。P2(臨床試験の第2段階)の少数例の試験では有効性の傾向がでていても、より大人数の患者さんに対して試験をしてみると、予期せぬ副作用がでてきてしまったり、十分な有効性の差が統計的に示すことができなかったりすることが多々あります。特に、最近では既存薬がたくさんあるほど、さまざまな治療方法を試した患者さんが治験に参加されますので、専門家の方々でも最近の抗がん剤はP3(臨床試験の第3段階)をやってみないと効果と安全性に対して評価ができないとコメントされています。そのような中で、少数例の試験の結果をより多数の患者さんを対象とした試験で再現し、承認を取得することは並大抵のことでなく、根気よく取り組まれている現場の方々に頭が下がる思いです。

国内初の個別化医療治療薬

国内では、協和発酵キリン社が成人性T細胞白血病患者さんを対象として、『抗CCR4抗体ポテリジオ』を発売いたしました。この薬剤は画期的なことがいくつか含まれています。一つは、投与対象となる患者さんを識別する診断薬と同時に認可された、いわゆる、個別化医療に対応した国内企業初めての薬剤です。もう一つは、抗体の効力を高める「ポテリジェント技術」を応用した初めての薬剤です。「ポテリジェント技術」が発見された後すぐに特許出願を行ったのが2000年であり、そこから12年かけてようやく患者さんに薬剤が届きました。たとえ画期的な技術が発見できても、薬の形にするためには、開発者、治験に参加された患者さん、医療従事者の方々の努力がなければ実現されません。一つのプロジェクトの成果を見届けられるのは、医薬品アナリストならではの醍醐味かもしれません。

iPS細胞への期待

2012年の嬉しいニュースの一つに、山中教授のノーベル賞受賞がありました。iPS細胞は加齢性黄班変性や脊髄損傷などの治療への応用が期待されるだけでなく、iPS細胞由来の肝細胞や心筋細胞が開発されています。これらを用いることで、創薬(新たな医薬品が製品となるまでの一連の過程)における前臨床段階の安全性試験で動物実験の割合を減らすことができたり、あるいは、iPS細胞由来で病気の細胞を作ることができれば、疾患のメカニズムの研究やそれらを用いた創薬への応用が展開できる可能性があります。

振り返ってみると、2012年は国内外とも医薬品業界で多くのイノベーションの進展がありました。ご紹介できなかったことでも、エイズ薬の開発進展、がん幹細胞の細胞株樹立の成功などなど、多くの進展がありました。薬の開発が難しくなったといわれていますが、まだまだ薬がない病気、原因がわからない病気はたくさんあります。そういった病に対して、挑戦し続ける、また、挑戦し続けられるような経営を目指す企業の今後の躍進に期待したいと思います。

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