アナリストの眼
企業の沿革
掲載日:2012年10月19日
- アナリスト
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投資調査室 堀井 章
私は、アナリストとして、企業の公開資料の熟読、企業の決算説明会への出席や企業への取材等を通じて情報を収集し、独自の分析を加え、投資判断を行っています。
企業が公表する資料の中でも、特に有益な情報を提供してくれるのは、有価証券報告書だと思います。各上場企業について、投資判断に最低限必要な情報が網羅されており、非常に重要な資料と考えています。また、全ての上場企業が、ほぼ同一のフォーマットで作成していますので、非常に読みやすく、探している情報がすぐに見つかるのが特徴です。
有価証券報告書を見ると、財務諸表等の細かな数字に注目してしまうものですが、意外と重要なのは「沿革」です。以下、「沿革」に注目する理由をご説明します。
企業のルーツがわかる
沿革を見ると、会社の創業時の事業がわかります。その会社のルーツがわかり、基礎となるコア技術やノウハウがわかる事があります。会社のコア技術やノウハウを知る事は、企業の競争力を理解する上で重要です。複数の製品を展開している企業の場合、コア技術から派生した製品なら、競争優位性が高い可能性があるでしょうが、そうでない製品は、何故そこに進出したのか、確認する必要があるかもしれません。また、将来という観点では、今後の技術的な応用や展開が想像できる場合もあるでしょう。
例えば、某エンジンメーカーの沿革を見ると、鋳物が創業の事業だとわかります。高品質なエンジンには、高品質な鋳物が不可欠です。鋳物の技術が、当該メーカーの競争力の源泉の一つである事が理解できます。
企業の戦略が時系列でわかる
沿革を見ると、企業の投資、買収、提携等、重要な戦略の流れが把握できます。会社の将来を予想するためには、過去の戦略の流れを把握することは非常に重要です。これまで取り組んできた事が、企業の将来を左右するからです。
また、沿革をみると、どの経営陣の時代にどういった戦略をとったかも一目瞭然です。場合によっては、経営陣の「思い入れ」や「こだわり」が想像できるかもしれません。こういったことは、将来の大胆な戦略転換の可能性について考える材料になるでしょう。
例えば、A氏が社長時代に、新分野Xへ進出する事を決定したとします。また、新分野Xは当初、将来有望な市場と思えましたが、徐々に競争が激しくなり、赤字にとどまっているとします。A氏の新分野Xへの思い入れが強いとすれば、A氏が経営陣に留まっている間は、同分野からの撤退等、大胆な戦略転換は行わない可能性があるでしょう。
このように、沿革は企業分析をする上では重要な項目です。定量的な情報ではありませんので「想像力」が必要です。財務諸表の数字から財務比率を計算するほど単純ではありませんが、沿革は、会社の強み、戦略の方向性等を分析する上で、様々な情報を提供してくれます。
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