アナリストの眼

ピーク需要への対応

掲載日:2012年09月21日

アナリスト

投資調査室 黒木 文明

電力不足と供給責任

今年の夏も、地域によっては節電目標が設定され、万が一に備えた計画停電も準備されるなど、電力不足が懸念されていました。私は、電力・ガス、情報サービス、素材を担当していますが、自社商品(電力)を積極的に販売できない電力会社はもちろん、電力依存度の高いデータセンターやガラス工場などを有する企業でも、事業活動への影響が心配されました。幸い、停電といった深刻な事態や緊張感が高まる状況に至ることはなく、節電要請期間後に電力会社が報告した需給実績からも、日々のピーク電力が供給力限界に近づくことはなかったことが確認されました。

結果的に大きな問題が起きなかったこともあり、電力不足懸念自体を改めて疑う声も出ています。ただ、供給能力が大幅に低下していたことは紛れもない事実ですし、緊急設置電源の導入・発電所補修タイミングの調整・他社への融通要請など供給力確保に向けた取り組みは行われていました。更に、新しい料金メニュー、ネガワット取引など、需要サイドでの新たな試みもなされました。同じ気温条件で比べて、今夏の最大電力需要は一昨年比で10%程度減少していましたので、家庭や企業による節電の効果が相当にあったと考えられますが、供給責任を結果的に果たしたことは事実であります。

需要の平準化

もっとも、供給責任を果たすためのこれまでの対応は、需要に合わせた供給能力の拡大が中心でした。想定しうるピーク需要に対して、予てから余裕度を多く持って供給力を確保しておけば、供給責任を果たせる可能性が高くなるのは当たり前です。
ただ、モバイル通信業界のように、設備に余裕を見ていたつもりでも、想定を上回る通信トラフィックの増加によって限界を超えてしまうようなケースもあります。また、ピーク時と平常時の需要格差が大きい場合、ピーク需要に合わせた設備の資産効率は悪いものになります。自前の供給力拡大のみでピーク需要に対応するアプローチの限界を認識し、需要を平準化するなどの取り組みに今後は期待したいものです。

例えば、コンピュータの世界では、仮想化技術の進歩とクラウドコンピューティングの普及により、需要への対応が洗練されてきています。ソーシャルゲームや電子商取引などの業界では、コンピュータの処理能力が供給限界となりますが、需要ピーク時には大量の処理を必要とする一方で、その需要予測は難しく、ピーク需要対応は容易ではありません。
そこで、需要に合わせてリソースを変動させることのできるクラウドコンピューティングが活発に利用されています。一方、リソースを所有するクラウド事業者側の立場では、仮想化技術を用いてコンピュータの利用効率を高めると同時に、業種や地域の異なる多数のユーザでピーク負荷を平準化させるため、ユーザが個別にピーク需要対応するのと比べてリソースを有効活用することができるのです。

今回は、電力会社のピーク電力不足を例にしましたが、業種・会社によって取り扱う商品・サービスは違っても、これまでに担当してきたどの会社も供給責任に対する思いは強く、そこから生まれる底力を幾度も見てきました。需要に確実に応えるのは簡単なことではありません。アナリストとしては、こうした価値もきちんと評価した上で、銘柄発掘に努めたいと思います。

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