アナリストの眼
コーポレート・ガバナンスを語る シリーズ第1回
掲載日:2012年07月24日
- アナリスト
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投資調査室 井口 譲二
私は、ニッセイアセットマネジメントの「コーポレートガバナンス・オフィサー」です。聞きなれない役職ですが、役割は、株式投資に伴い発生する議決権をどのように行使していくかの方針の立案を行うことです。議決権も、お客様からお預かりした資産から発生するものですので、株式への投資同様の真剣勝負となります。今後、この「アナリストの眼」に何回か登場することになっておりますが、数回に分け、「コーポレート・ガバナンス」を巡る議論について、語れればと思っています。
最近、「コーポレート・ガバナンス」という言葉を、よく新聞・テレビでみかけます。日本語に翻訳すると「企業統治」というややかための日本語であることに加え、ある企業が不祥事を起こした際に、「あの会社は、コーポレートガバナンスが駄目だから、、、」等というようにも使われるので、一種の企業を取り締る法律、あるいは、規制のように思われているのかもしれません。全くの間違いというわけではありませんが、その解釈は、実態の一部を述べているにすぎません。
「コーポレート・ガバナンス」の定義については様々ですが、我々のような、お客様から資産をお預かりし、会社の株式に投資する資産運用者の立場からしますと、「コーポレート・ガバナンス」とは、「持続的に株主価値を創造できる経営体制/仕組み」であり、「良いガバナンスの会社」とは、「経営に不祥事を起こさないチェック機能を備えていることはもちろん、適確な経営判断を行う経営陣/体制を有する会社」ということになります。
実際、近年、「コーポレート・ガバナンス」は、企業の競争力、ひいては、国家の競争力に大きく影響するといった見方から、日本だけでなく、世界的な規模で、活発な議論が行われています。日本でも、2005年に会社法という「会社の仕組み/活動」を定めるルールの大改正が行われました。更に、現在では法務省から会社法改訂の「中間試案」が出され、新しい経営形態である「監査・監督委員会設置会社」や「社外役員の導入」などが、提案されています。
さて、コーポレート・ガバナンスの定義や重要性についてのお話はこのあたりまでとします。コーポレート・ガバナンスの議論の起源について話したいと思います。いわゆる「会社」は、その目的・規模により、いくつかの形態を採用することができます。選択できる形態には、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社などがあります。その中でも、圧倒的に採用されているのが、株式会社です。ちなみに、ニッセイアセットも、株式会社です。
株式会社の起源について諸説ありますが、オランダの東インド会社がその最初とされています。株式会社は、(1)出資者が共同所有することによりリスク分散がはかれる、(2)出資の証明書である株券の譲渡により必要な時に換金できる、(3)有限責任であること(無制限に責任をとらなくて良い)、(4)株主と業務執行者(所有と経営)を分離でき、効率的な経営が可能である-などの優れた点をもっており、他の会社形態を圧倒し、その採用は、飛躍的に広がりました。資本主義における最大の発明という人もいます。
さて、上記の4点目に指摘した「所有と経営の分離」についてもう少し補足しますと、会社に資金を提供している株主が、自ら会社を経営するのではなく株主総会などの投票で信頼に足る経営者を選び、この経営者に経営を任せるということです。この仕組みのおかげで、多数の株主が個別の経営課題に対し個々に多数決をとる必要はなく、株主から選任された専門的な経営者が迅速に判断し、効率的な経営を行うことができるのです。
しかし、資本主義の発展とともに会社の規模も大きくなり、株式保有が分散化(大株主がいなくなる)されると、株主の力が弱まり、長所であった「所有と経営の分離」が進みすぎるといった弊害も引き起こしました。具体的には、経営者の行動が出資者である株主利益の最大化を目標とせず、例えば、自分自身の名声を高めるため、無駄な合併/買収を繰り返し、企業の規模を大きくしようとしたことなどです。1932年に、バーリ教授・ミーンズ教授はこの流れを喝破し、「経営者中心主義」と指摘しています。
1970年代に入り、ハーバード大学のジェンセン教授、メックリング教授も、この問題を指摘、「エージェンシー理論」を提唱しました。「株主」をプリンシパル、「経営者」を株主から選任された代理人(エージェント)として位置づけ、この「経営者と株主のインセンティブの差(エージェンシーコスト)」の最小化こそが、ガバナンスの仕組みとして重要と位置づけたのです。(例えば、ストックオプションの導入など)この理論が、今日まで米国のガバナンス議論の基準になっているといわれています。
このようにコーポレート・ガバナンスの議論は、非常に奥深いものです。最近では、企業の社会における貢献が求められ、上記の「所有と経営」だけでは語りきれない状況にもなっています。このあたりも含め、次回以降、議論を深めたく思います。
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