アナリストの眼

資源問題

掲載日:2012年01月23日

アナリスト

投資調査室 徳永 祐美

鉄鋼、非鉄、石油、鉱業、海運業界を担当させていただいております。

日本の鉄鋼業界の粗鋼生産シェアは1973年の17%をピークに2010年は8%に低下しました。同様に、その原料を運ぶ海運業界のプレゼンスも低下しています。

日本の粗鋼シェアが低下した理由は、需要の中心が先進国から新興国に移ると同時に、需要国の生産シェアが高まったことです。現在では中国が世界最大の需要国で世界シェア46%の生産量となっています。中国では需要を上回る生産能力の増強が実施され、鉄鋼の輸入国から今や輸出国に転じています。

韓国では生産能力が国内需要を下回っていましたが、10-11年に新たに高炉が2基建設されたことで国内需要がまかなえるようになり、足元は輸出が増加しています。日本では大きな生産能力の増加はありませんが、国内需要が減少していることから輸出が増加し、近年では日本で生産されている鋼材の半分以上が海外に輸出されています。

以上のように中国、韓国、日本からアジアへの輸出が増加していることにより、アジアの鋼材価格はメーカーの想定通りには上昇していません。原料が上昇しているため、各社の利益率は低下しており、中国企業の半分程度が赤字に陥っているようです。

世界一厳しいといわれる日本の自動車メーカーの品質要求に応えてきたことから、品質面では日本の鉄鋼メーカーに一日の長があります。しかし、コスト競争力では見劣りします。コストで大きな差となるのは為替と主原料(鉄鉱石、石炭)の自給率です。

USドル、韓国ウォンに対して円高となっていることが、日本メーカーには不利に働いています。主原料の自給率(自国内もしくは海外の出資鉱山からの調達)は韓国大手企業が現在32-33%、日本大手企業が25-35%。一方、ロシアは80-100%、中国は石炭90%、鉄鉱石40%程度で、日本、韓国の自給率が相対的に低いといえます。

鉄鉱石の価格は1980年から2004年まで25-30ドル/トン程度前後で推移してきましたが、中国の粗鋼生産の急増を背景に2005年から急騰し始め、2010年には200ドル/トンを超え、現在は140ドル/トンとなっています。上昇してきた背景には、中国の需要増のほかに、原料メーカーが統合し寡占状態となったことで価格交渉力がついたこと、洪水などの天災の多発などが挙げられます。もはや2000年前半の水準に価格が戻ることは期待しにくいと思われます。

原料(資源)の自給率が素材メーカーのコスト競争力に影響を及ぼすのであれば、資源を持たない日本企業は極めて厳しい状況に置かれているといえるでしょう。

一方で資源ナショナリズムが高まり、過去1年半で25カ国以上の資源国が税金またはロイヤリティを通じて政府の収入を増加させる意向を示しました。中国はレアメタルの輸出枠に制限を設け、関連産業を中国内に誘導するというように戦略的に資源を使っています。また、資源価格の上昇を背景に、資源消費国や資源メジャーが企業を買収する動きも活発化しました。2011年の世界の非鉄金属の投資金額は234億ドルで、投資主体の7割が中国、被投資主体は豪州、東南アジア、北米、アフリカ等となっています。資源やキャッシュを持つ国と持たざる国の格差が一層拡大することになるのではないでしょうか。

日本の非鉄企業は鉱石を購入して製錬する買鉱製錬業者でしたが、そこから脱皮し、鉱石の産出を行う「非鉄メジャー」を目指している企業の動きがあります。 また、石油では06年の株式公開で調達した資金を開発に充当し、日本企業で初めてとなる海外での大規模ガス田の操業を行う予定の企業もあります。

ただ一企業の資金力には限界があるので、資源問題は国を挙げて取り組むべき問題といえるでしょう。平成22年度の日本の資源・エネルギー関係予算は6,938億円でした。うち、「戦略的な資源外交の強化による石油、天然ガス、鉱物資源等の安定確保に向けた投資」は2,260億円となっていますが、その中で石油等の備蓄に1,353億円と最も多くの予算が割かれています。残りの内訳は資源開発支援302億円、戦略的資源外交140億円、レアメタルの開発支援265億円、メタンハイドレート45億円となっています。中国が金属資源や油田権益の取得に投じた資金(H19年推計)約2兆7,000億円の4分の1程度の水準です。

独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がリスクの高い探鉱事業に必要な資金を出資したり、開発事業資金や資産買収に関連する資金の借入に対して債務保証するなど、重要な支援を行っています。

しかし、関連企業のヒアリングなどでは「日本の近海に豊富な資源が存在することが知られているのに、開発費が少なく、有効な開発が行われていない」、「資源開発の予算規模が小さい」などという声が聞かれます。このままでは日本の資源関連企業の競争力は一層の低下が予想されますので危機感を持った長期ビジョンに基づく予算作成が期待されるところです。

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