アナリストの眼
日本と台湾のハイテク企業
掲載日:2011年11月25日
- アナリスト
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投資調査室 小林 守伸
日本株の家電および精密業界を担当しています。弊社では、従来、日本株を専門に調査してきたアナリストが海外企業の調査も行うグローバルなリサーチ体制に移行しています。そのため9月末に台湾に出張し、台湾のハイテク企業の調査を行ってきました。その時に気づいたことについて、今回はご報告します。
台湾のハイテク企業は水平分業化を主導し、その流れに乗り成長を遂げてきました。一般的に日本企業が技術優位性を差別化の源泉に求める傾向が強いのに対し、台湾企業は専業化とスケールメリット追求によるコスト競争力に優位性を求める傾向が強いと認識していました。しかし、今回の出張で、台湾企業も着実に技術力を高めてきていることが確認されました。
とくに、アップル製品のサプライチェーンを構成する台湾の企業群でこの傾向が顕著なようです。アップル製品はハードのデザイン性に加え、優れたユーザーインターフェースや「iTunes」によるコンテンツ配信など、ハードとソフトの両面において高い評価を得ています。
アップルのハードにおけるデザイン性の追及は、美しいフォルムを実現するための金属筐体加工、薄さを実現するためのバッテリーパック加工などの要素技術によって実現されています。また、優れたユーザーインターフェースは、指で軽快に動作するタッチパネルの開発が不可欠でした。これらを含めアップル製品の要素技術の多くを台湾企業が担っています。
例えば、アップルのノートパソコンである「Mac Book」の筐体は、アルミの板を加工した3枚のパーツから構成されています。1枚のパーツはアルミの板をコンピュータ制御した最新の工作機械で50ステップも加工します。はじめに400グラムあったアルミの板は、加工後は200グラムにまで減少します。最新鋭の工作機械を使って、24時間フル稼働して1日当たり1台で生産できるのは20パーツ程度です。いかに加工度が高いかが窺い知れます。
訪問したこの金属筐体の加工メーカーは、アップルの高い要求に辛抱強く応え、3年近く試行錯誤を重ねてノウハウを蓄積しました。工作機械に装着する切削工具だけで12種類もあり、これをどう使うかだけでも、かなりノウハウがいるとのことでした。現に、後発メーカーが同じ加工を行うと1日に5パーツ程度しかできず、生産性で4倍もの開きがあります。本来なら日本企業が得意とするような領域においても、台湾企業は着実に技術力をつけてきていることが具体的に確認できました。
こうしてみると、日本企業の活躍の場がなくなっていくように受け止められるかもしれませんが、このメーカーが使っている最新の工作機械は、実は、日本の企業が供給しているのです。アップルの製品用に使う工作機械だけでもかなりの台数が日本から輸出され、関連する日本企業は、その恩恵を享受しました。
このように、日本と台湾は企業レベルでの補完関係が増えてきています。今後、ますます、日本企業と台湾企業の両方を調査する意義が大きくなっていくとみられます。私達も、グローバル・リサーチにさらに"磨き"をかけていかなければならないと感じている次第です。
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