アナリストの眼
震災後の小売セクター概況
掲載日:2011年07月21日
- アナリスト
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投資調査室 渡邊 亜希彦
東日本大震災からまだ1週間程しか経過していない3月の三連休に、同時期にオープンとなった二子玉川ライズ・ショッピングセンターを訪れました。
まだ震災直後で、多くの方が普段どおりの生活には戻れていない状況だったと推察されますが、行ってみると数多くの人で賑っており、まるで鬱積した消費のパワーが局地的にここで一気に噴出しているかのような、そんな錯覚にとらわれたことを今でも覚えています。
もちろん、新規オープン時は人が集まるものではありますが、安易に言われがちな”震災による消費マインド低迷”についても、本当にそうなのか、具体的にどのように消費行動に変化が生じるのか、改めてきちんと考えてみる一つのきっかけになりました。
さて、今年は年度初から震災に見舞われた小売セクターですが、2月決算各社の第1四半期(3-5月)実績を見てみますと、当初の計画に比べてとても順調な進捗を示す企業が目立つ展開となりました。
好調の背景としては、販売が想定ほど落ちこまず、広告費も抑制気味で、また、商品需給がタイトになる中、過剰な特売が減少、定価でも売れてしまうため値引きロスの影響が相対的に少なかった、といった事が上げられます。
また、そもそも、2月決算企業については震災直後で先行きの見通しを立てることが極めて困難であった3月末前後に新年度計画を組んだ会社が多いため、期初計画が過度に保守的になってしまった、という一面もあったかとは思います。しかし、それでもこれほどまでの急回復、小売企業の”現場力の強さ”というものは、株式市場にとってはややサプライズがあったのではないかと感じています。
さらに、第2四半期の初月である6月の販売実績を見ても、引き続き全般に堅調な展開となっています。5月は日用品中心に3-4月の買い溜め需要の反動減が生じたほか、月末の台風含め天候が悪影響をもたらしました。しかし、6月については、4ヶ月に一度の子供手当の支給月という事もあるかとは思いますが、中旬以降、好天に恵まれる中、これまで不振だった東京都心の百貨店販売にも改善の兆しが見られるなど、明るいニュースが多かったと思います。クールビズ商戦や暑さ対策の消費も本格化してきました。
ここまで振り返りますと、小売各社は”震災による消費マインド低迷”というフレーズからは想像しにくい順調な業績推移となっている形ではありますが、果たしてこの動きが続くのかについては不透明な部分もあると思っています。子供手当て効果の一巡(前年10月より4ヶ月分フル支給)や冬の賞与が伸び悩むと見込まれていること、などが理由です。従って、今年度後半は、より個別の銘柄選択が重要な局面になるのではないかと考えています。
年度初は震災とその後の混乱の中で、例年以上に業績予想をどう組み立てるか、悩まされる事が多かったと感じています。年度後半に向けて、引き続き、経営や業績の本質を見極める意識を強く持って望んでいきたいと考えています。
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