アナリストの眼
「為替感応度」だけではわからない円高の影響
掲載日:2010年11月22日
- アナリスト
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投資調査室 堀井 章
私が担当する機械セクターは、典型的な輸出加工産業であり、常に為替変動リスクを抱えています。最近の円高により企業業績が圧迫されるという現実を目の当たりにし、現状の円高の深刻さを感じております。
為替変動が企業業績に与える影響度合いとしては、一般的に、企業が発表する「為替感応度」をベースに議論される事が多いです。例えば、企業Aの為替感応度は、「1ドル変動で40億円」だとします。この場合、企業Aの今期営業利益計画が、為替1ドル90円を前提に1000億円だとすれば、為替前提よりも10円円高になれば、400億円(=10円×40億円)利益が目減りし、600億円しか稼げなくなるということを意味します。

多くの場合、為替感応度は、企業が発表する唯一の「為替変動の影響を測る定量指標」となります。ただ、為替変動の企業への影響というのは、為替感応度で簡単に計算できる程単純ではないと考えております。以下、2つの事例により、為替感応度だけではわからない円高の影響についてご紹介します。
第一の例としては、前述の企業Aがアメリカに機械を輸出しており、企業Aはアメリカではドイツ企業Bと競合するケースを考えてみましょう。更に前提条件として、ドル/円レートに変動なく、ドル/ユーロの関係ではユーロ安が進行している状況にあるとします。先程の為替感応度をベースに考えると、ドル/円レートに変動がないため、企業Aの業績には何ら影響が出ないという結論になってしまいます。しかし、現実は違います。
ドイツ企業Bはユーロ安によってアメリカへの輸出競争力が増します。つまり、ユーロ建ての出荷価格に変更ない場合でも、アメリカにおけるドル建ての販売価格は従来よりも下がります。一方、日本企業Aは、ドル/円レートに変更はないため、従来価格のままです。よって、日本企業Aとしては、(A)市場シェア維持の為に、ドル建ての価格を下げるか、(B)ドル建ての価格を維持して、市場シェアを落とすか、の選択に迫られます。(A)の選択をすれば、価格下落により利益率は悪化しますと、(B)の選択をすれば、販売数量が減少し、売上が減少してしまいます。いずれのケースを選択しても、企業Aの収益を圧迫することになります。
第二の例としては、日本企業Cが円建てでアメリカの販売代理店Dに機械を輸出しているケースを考えてみます。企業Cは円建てで出荷しているため、為替変動の影響は表面上ないと言えます。ただ、販売代理店Dから見た場合、円高が進むと、円での支払額が一定であっても、ドル建てでは、従来より高い価格で企業Cから買うことになります。販売代理店Dは、アメリカではドルで最終ユーザーに販売しますので、儲けは従来より少なくなってしまいます。よって、販売代理店Dは、利益を維持するために(A)この商品のアメリカでのドル建て販売価格を上げるか、(B)企業Cに円建てでの出荷価格を下げるように要求することになります。(A)の場合は、企業C製品のアメリカでの市場シェアは下がることで、企業Cの輸出数量は減少しますし、(B)の場合では、企業Cの円建て出荷価格が下がることで、企業Cの利益率は下がります。いずれのケースを選択しても、企業Cの収益を圧迫することになります。
以上二つの例から、企業が発表する為替感応度だけでは円高の影響は十分に把握できないことがご理解頂けると思います。今後も為替が企業業績を大きく変動させるファクターである状況は続くと思いますので、企業毎の状況を緻密に把握し、収益予想を行っていきたいと考えています。
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