アナリストの眼
自動化で代替されない価値とは
掲載日:2010年10月22日
- アナリスト
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投資調査室 黒木 文明
新興国の存在感が高まる中、日本企業の活躍の場も変化しつつあります。一例として、リーマンショック後の回復局面では、新興国の工場自動化進展をテーマに、FA(Factory Automation:工場自動化)関連銘柄に注目が集まりました。
新興国における工場の自動化は特に新しいテーマではありません。労働賃金の上昇、生産数量増加に伴う効率化要求、品質の水準と安定化要求などにより、新興国の生産現場でもいずれ自動化は進むと考えられてきました。
今回、改めて注目を集めたのは、世界の工場とされる中国で、沿岸部を中心とした人員不足、大手日系メーカーでの労働争議など、労働問題が顕在化したことで、労働力代替ニーズでの自動化進展が想起されたためです。
私たちは、日々の活動を通じて、シナリオや見通しの確信度を高めたり修正したりして、投資判断につなげていきます。その意味では、新興国の自動化進展シナリオの確信度は高まったと言えます。新興国の自動化進展度はまだ低いですし、今後の消費・生産の拡大を考えれば、自動化関連市場のポテンシャルは相当に大きいと思われます。
自動化先進国の日本では、センサ・制御機器・アクチュエータ(電機モータ、油空圧機器など)など、自動化を支える各要素分野で技術蓄積が進み、強みを持った企業が数多く存在しています。これら要素の組み合わせで高機能を実現する各種製造装置や産業用ロボットも同様です。こうしたFA関連の企業では、高い収益性を保っている企業が少なくありません。
あるFA関連の企業から「自社の商品の付加価値低下を認めることになるので、競争はあっても簡単には値下げしない」との発言を聞いたことがあります。顧客の製造現場の潜在的なニーズを汲み取った商品を開発・提供し、「高い付加価値を生み出している、すなわち顧客に高い価値を与えている」という自信の表れなのでしょう。今後、新興国を中心に自動化関連市場の拡大が予見される中、高付加価値を武器にした日本企業の活躍には多いに期待したいところです。
一方、FA関連企業の活躍もあり、日本の製造業の競争力を支えてきた生産技術が新興国に移植されていけば、品質など日本製ならではの付加価値が相対的に低下し、競争相手として新興国企業の脅威が増すとの危惧があります。
もちろん、新興国企業との競争は避けて通れないでしょう。ただ、今回の景気悪化局面においても、多くの企業が原価低減の取組みを強化しました。その多くは、「設計見直しによる部品の点数削減・共通化」「原材料ロスの低減」「生産手法改革による工程時間の短縮化」など、実際にモノを作っている生産現場からの改善提案をベースにしたものです。自動化によって生産性は向上しても、新たな付加価値を創出する創意工夫まで自動化されることはなく、勝機もありそうです。
私たちアナリストも、「高い付加価値を生み出している」と自信を持っていえるよう、日々創意工夫と改善の積み重ねです。
アナリストの眼
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