アナリストの眼

岡田ジャパンの変化の兆し

掲載日:2010年06月23日

アナリスト

投資調査室 井上 渉

当コラムを執筆している時点では、岡田ジャパンは6/24のデンマーク戦を前に決勝トーナメント進出の可能性を残しています。当初、岡田ジャパンを不安視する声が多く聞かれていただけに、カメルーン戦の勝利には格別なものがあり、岡田ジャパン株も急騰したように思えます。逆に、期待値の高かった欧州やアフリカ勢は軒並み苦戦を強いられており、好対照の結果となっています。

我々アナリストは企業の変化の兆しを捕らえる嗅覚が重要と言われますが、岡田ジャパン株の急騰を目の当たりにして、そこに変化の兆しはあったのかどうか、何が変化して岡田ジャパンは変われたのかを、今日はアナリスト的な視点で簡単に検証してみたいと思います。

企業が変化する兆候として、(1)マネジメントの変化、(2)株主の変化、(3)事業ポートフォリオの変化、(4)競争環境の変化、(5)財務状況の変化、などが考えられます。企業の場合は、特に(1)のマネジメントが交代したタイミングで大きく方向転換をすることが多いのですが、岡田ジャパンでは岡田監督が続投していますので、今回は当てはまりません。また、日本サッカー協会は赤字と言われていますが、財政危機に瀕しているとは考え難く、サッカー日本代表というミッションも何ら変わっていませんので、(3)と(5)も当てはまらないと考えるのが自然でしょう。つまり、残る(2)と(4)が変化した可能性が高いと推察されます。

まずは、(2)の株主の変化を検証してみましょう。岡田ジャパンにとっての株主は日本国民であるため、株主が入れ替わるという根本的な変化は考えられません。ただ、岡田ジャパンが不甲斐ない試合をすればするほど、我々株主は不満が溜まり、最終的には監督更迭を求めるといった「株主提案」をすることになります。今回は株主提案までは至らなかったものの、岡田監督が進退に言及するなど、これまで全面的に応援してきた我々株主の岡田ジャパン離れが、相当なプレッシャーを与えたことは容易に想像できます。一方、日本企業においては、安定株主を持つ企業が多く、株主の変化が経営に影響を与えることは稀です。ただ、業績低迷企業においては、機関投資家が株主総会で取締役選任議案に反対票を投じるなど、マネジメントに対するプレッシャーは年々厳しくなっており、株主の変化が企業に変化をもたらすケースも増え始めています。

次に、(4)の競争環境の変化については、企業で言えば新たな競合の参入や新技術開発よる既存技術の陳腐化などが好例です。近年は、韓国や台湾、中国企業の参入により、製品が一気にコモディティ化するケースも多く、自社のブランドや技術力を過信していた日本企業の事業撤退が相次いでいます。岡田ジャパンにおいては、自らの目指すべきパスサッカーがあったものの、敗戦を繰り返すうちにパスサッカーの競争劣後に気付き(気付かされ)、テクニックよりフィジカル重視の現実的な路線へシフトできたことが、今日の良い結果に繋がっていると私は考えています。競争環境は生き物の如く日々変化しており、変化に対して正面から対峙できるかどうかが、企業が変われるかどうかの境目である気がしてなりません。

以上、事後分析になりますが、ワールドカップ直前の連敗を契機として、岡田ジャパンには変化の兆しが確認されることから、本番では変わるべくして変わったと言っても過言ではありません。本当に変われたのかどうかは、次のデンマーク戦で判断すべきでしょうが、岡田ジャパンの変化がデンマーク戦への期待感を増幅させていると、誰もが認めるところでしょう。企業も同様に変化の兆しを我々に発しているはずであり、それを適切に受け止められるかどうかがアナリストのスキルの一つだと考えています。次の岡田ジャパンを探すべく、アンテナを常に高く張って企業調査に励んでいる今日この頃です。頑張れ岡田ジャパン!頑張れニッポン!

アナリストの眼一覧へ

「アナリストの眼」ご利用にあたっての留意点

当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。

【当資料に関する留意点】

  • 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
  • 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
  • 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
  • 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。