アナリストの眼

素材業界と内需(不動産、住宅、建設)業界の比較

掲載日:2010年05月21日

アナリスト

投資調査室 徳永 祐美

新年度から新しく不動産、住宅、建設業界を担当させていただいております。これまで担当していた素材業界と比較すると様々な違いがあり、毎日、新しい発見をしながら調査をすすめています。

不動産業界はオフィスビルやマンション等の賃貸、販売を行っています。賃料が変動するという点では一種の市況産業といえます。しかし、日々の価格変動が直接収益に影響してしまう素材業界と異なり、賃料は複数年契約であるため、収益は比較的安定しています。また、空室率が改善してから半年から1年後に賃料が上昇しますので、当期の業績予想が大きくぶれることは少ないといえるでしょう。ただし、不動産業の株価は収益の先行指標となっている空室率等に反応しますので、素材同様に株価の変動は大きいといえます。

不動産業界と素材業界が似ていると思われる点は好況のときに設備投資を行うことです。不動産業界では2011年問題が注目されています。2011年問題というのは2011、12年に東京都内に大量のオフィスビルが供給されるという問題です。そのときに景気が回復していなければ、空室が増え、賃料が下がり、不動産業界の収益に悪い影響を与えてしまうと懸念されています。ビルの竣工時期が2011、2012年に集中する理由は、不動産市況が上昇した2006、2007年ごろに各社が土地を大量に購入したので、その上に建つビルが完成する時期がそのころに集中してしまうのです。素材産業も好景気になると生産能力が足りなくなり、工場や生産設備を増やす傾向にありますが、工場が完成するころには景気が悪くなり、うまくいかないのと似ています。

素材業界の仕向け先はいろいろありますが、大きいのは建設業界と自動車業界です。国内の建設投資を中心に今後需要の拡大が大きく期待できないことから素材産業は比較的早期に海外展開をすすめてきました。すでに大手鉄鋼メーカーは生産量の半分を輸出していますし、ガラス大手は世界的にも高いシェアを持っています。

それに比べると、不動産、住宅、建設業界の海外の取り組みは緒についたばかりといえます。日本は東京に人口が集中する傾向にあるため、首都圏を主力としている大手不動産業界の業績は比較的堅調であること、また、不動産、住宅、建設業界は発注者と受注者の間にある程度の強い結びつきがあるため、それほど強い危機感を感じる環境になかったこと、不動産、住宅、建設はその国、地域の政策や様々な情報が必要なため、優位性が見出しにくいこと、などが理由と推察されます。

裏を返せば不動産、住宅、建設業界の成長余地は大きいといえます。それらの中ではトイレや給湯器などの住宅設備機器メーカーの海外展開が最もすすんでいます。製品が高性能であり、販売のための流通チャネルの確保に成功しているようです。大手ゼネコンは世界的にも高い技術力を持っているといわれていますが、前期に海外事業で大幅な損失を計上しました。理由はいくつかあるようですが、様々な不測の事態における個々の契約を明確に定めていなかったことが大きいようです。各社は対応策を講じており、今後も海外事業を拡大する方針です。

いずれにしても「国際競争力」を持たなければ、グローバルな成長は見込めません。これは我々アナリストにも言えることであり、お客様に継続的に超過収益を提供できるように、日々鍛錬の毎日です。

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