アナリストの眼
アナリストからみた幸福の方程式
掲載日:2009年10月20日
- アナリスト
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投資調査室 八並 純子
私の担当は、トイレタリやヘルスケア業界です。最近読んだ山田昌弘氏の著書「幸福の方程式」にはなるほどと思う部分も多く、日ごろの調査活動での気づきを述べてみたいと思います。
山田氏は、「消費は、幸福のストーリーに必要な商品を買うことではなく、幸福のストーリーをサポートするためのものとなる」とし、「企業は人々が幸福になることをサポートすることによって利益を得る」としています。確かに、私が担当しているトイレタリの製品をみても、香りなど、洗濯や食器洗いをするときに楽しくなるような製品が売れているようです。トイレタリ業界は90年代後半から価格低下に悩まされてきたのですが、価格低下に歯止めがかかってきたのは、こういった付加価値の高い製品をメーカーが投入していることもあります。消費者が考える付加価値がお得感や、機能性だけではなく、家事を楽しくしてくれるものに変化してきているといえるかもしれません。
消費の二極化も、著者によれば、ある機能に対して、「できさえすればよいと考える人」が増えているため値ごろ感が下がってきているのではないかとしています。最近の化粧品業界に顕著に見られるのが、従来中価格帯といわれていた製品群の売上が低下し、低価格帯の売上が好調という現象です。もちろん、最近の景気低迷の影響もあるのでしょうが、美しくなるためには、ある程度の価格が必要という一つの考え方から、自分の求める機能を満たしてくれればよいと考える人が増えたこともあるのでしょう。自分にとって必要な機能は何なのかを気づかせてくれるような化粧品、「機能性化粧品」と呼ばれるカテゴリは順調に売上を伸ばしているようです。
著者はまた、「新しい消費のカタチとして、つながりを作り出す消費がますます大きくなり、それをサポートする産業がこれからの経済をリードする産業」と述べています。環境に配慮した製品は2000年ごろからあり、自分にとって節電や節水などのメリットがあるものが売れていた程度だったそうですが、最近では社会のためによいことをするということも購入の要因の一つとなっているようです。花王が「一緒にeco」というキャッチフレーズで新しい製品を投入していますが、この見方に沿うのであれば、節水、コンパクトさが社会にとっていいことをしているのだということをいかに消費者と共有できるかが重要になってくると思います。環境問題を一緒に考えるという視点を重視した新製品を投入する、これは単に消費財を提供するというメーカーの役割から、一緒に社会をつくっていくという機会の提供を行う試みともとれるでしょう。
つながりは消費だけではなく、医療の世界でも重要になっていると思います。サイエンスを追求することで発見される新しい薬剤や医療機器の開発だけでなく、医療現場のニーズをよく理解することで、新しい製品開発のチャンスが広がることがあります。医療従事者をどうサポートしていくのかという視点から新しいイノベーションがうまれています。医療現場を理解したうえで、新製品の開発につなげ企業成長を達成していく。これは企業だけでなく、一人ひとりの現場の社員の方にとっても社会とのつながりを実感できる場となっているのではないでしょうか。
アナリストとファンドマネージャーの協業というつながりがパフォーマンスの達成には必要です。企業の方との日々のディスカッションというつながりが投資機会を与えます。将来のイノベーションに向かって前向きに取り組んでいる企業の姿、ビジョンを達成するために努力を続けている経営者の姿、それを一生懸命理解しようとしているファンドマネージャーの姿は、特にここ一年の急速な資産価格の下落等による先の見えない不安のなかで、弊社のアナリストにとっても大きな心の支えになっていたのではないかと思います。そして、それを企業経営者や顧客のみなさまと共有でき、社会の役にたっていると一人ひとりが実感できることが、運用機関の幸福なのだと思います。
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