『脱グローバル化』と半導体の地産地消

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運用企画部
佐治 信行

概 要

  • 英国EU離脱、米中対立、新型コロナ、ウクライナ戦争などこれまでのグローバル化の流れに変化
  • 政府主導の半導体の地産地消戦略
  • 深層学習のAI、デジタルツイン、DXなど、そのカギを握る半導体の安全保障がより重要

英国EU離脱、米中対立、新型コロナ、ウクライナ戦争などこれまでのグローバル化の流れに変化

2016年の英国におけるEU離脱の国民投票以来、この数年間で世界を取り巻く環境が一変してきた。中でも、米中の対立とウクライナ戦争については世界を再び二分する重要な事象に進みかねない。「脱グローバル化」の印象すらある。そうした中で、デジタル社会の急速な進展がもたらすリスクが顕在化し始めている面があり、国家的機密情報の漏洩が、とりわけ米中間において盛んに取りざたされているのが現状である。

政府主導の半導体の地産地消戦略

この動きの中で当然、情報処理及び操作のカギを握るデバイス、半導体の重要性は日に日に高まってきており、その最先端の技術を持つとされる米国は2022年8月より「CHIPS・科学法」という法律を施行している。これは、半導体の設計、製造、研究開発のための『国内』設備及び装置への投資に500億ドル以上の補助金を支出するものであり、半導体の大手企業はこれに呼応して米国国内に生産設備を追加建設する動きを見せている。

具体的には、台湾積体電路製造(TSMC)がアリゾナ州に2か所、計520億ドルの半導体工場(5nmの最先端)の建設を発表している。また、インテルも同じくアリゾナ州、そしてオハイオ州に最先端工場を建設、サムスン電子はテキサス州に170億ドルの最先端工場、日本勢も富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ、住友化学、JX金属が関連製品の米国の国内工場建設に動いている。

他方、米国と同じように、韓国、台湾、そして日本でも国内での半導体製造設備の構築を目的とした法律を施行し(図表1)、足元において、地産地消を経済安全保障の観点で2022年から、国主導の半導体設備投資ブームが一斉に始動しているのである。実際のところ、統計からもこうした動きは垣間見えるところであり、米国の製造業向けの建設投資及び機械投資が、昨年来、急増してきている(図表2)。これは1980年代以来、米国製造業の空洞化が長らく語られ、旧自動車工場の廃墟等が話題になってきたこの米国で久方ぶりの工場建設の動きということになる。

【図1:主要国・地域における半導体産業強化策(2022年以降)】

国・地域名 政策・根拠法
米国 「CHIPS・科学法」(CHIPSプラス法)
「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors」
(2022年8月施行)
韓国 「国家先端戦略産業競争力強化および保護に関する特別措置法」(2022年8月施行)
「改正租税特例制限法案」(追加の改正案を2023年1月発表)
台湾 「産業創新条例(第10条の2および第72条)改正案」(※通称「台湾版CHIPS法」)
(2022年11月17日閣議決定)
日本 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法の一部を改正する法律」
(2022年3月施行)
  • 出所)各国・地域政府発表資料、ジェトロビジネス短信を基にニッセイアセットマネジメント作成

【図2:米国国内設備投資(建設、機械)】

建設投資額(製造業向け)
(四半期、季節調整値)

機械投資(産業向け)
(四半期、季節調整値)

  • 出所)米国 Bureau of Economic Analysis よりニッセイアセットマネジメント作成

深層学習のAI、デジタルツイン、DXなど、そのカギを握る半導体の安全保障がより重要

この主要国における政府主導の半導体の地産地消戦略には、膨大に拡張する半導体需要への対応が無論ある。予測機関の推計によれば、2021年の半導体市場は0.6兆ドルが2030年には1.0兆ドルに拡張する。これは金額ベースであるから、技術革新及び価格低下を勘案すると、計算能力ベースであれば数十倍、数百倍にもなることを示唆していることになる。我々は今、半導体技術革新の観点で、歴史的な転換点に来ているのかも知れない。歴史的な整理をするとすれば、19世紀に蒸気機関という技術革新が起こり、大陸横断鉄道や太平洋航路が開設、グローバル化が進む。

そうすると、この機に乗じて新興国があらわれ(当時はドイツ)、既存の英国、フランスと対立、その後第一次世界大戦に向かう『分断』を生んだ。20世紀は内燃機関(自動車)から始まり、飛行機の開発、世界は空で結ばれる。暫くして米ソ対立が深刻に。そうした中、宇宙開発競争でGPS(全地球測位システム)とインターネットが生まれた。このインターネットが1990年代半ば以降に急速に普及する中で、東西の壁崩壊後に中国がWTO加盟を果たし、世界が一体化する『ボーダレス化』時代到来であった。この場面における新興国は中国であり、百数十年前に二分された欧州でウクライナ戦争という、再び同じ対立が起こっているところに歴史的な必然性を感じる。

技術革新、グローバル化、新興国の台頭、紛争・分裂。これを人類は繰り返してきた歴史が過去150年の総括でもある。したがって、新興国の台頭からくる分裂は新たな技術革新を生むと考えたい。その場合に核となる技術の存在とそれを支える要素が必要であり、前者が生成AI及びデジタルツイン(コンピュータ上の仮想空間)であり、後者が最先端半導体(メモリー、ロジック)、更には量子コンピューターと考えられる。『脱グローバル化』の中で半導体は最重要なデバイスの一つであり続ける。

【図3:[長期サイクル] 技術革新、グローバル化、対立、『脱グローバル化』、次に生まれる新技術】

  • 出所)ニッセイアセットマネジメント作成

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